奈良風俗求人と憂鬱

私は村のお店で買った「粉物こねくり回し切りねじり焼き上げ」をもぐもぐしながら、村を歩く。
奈良風俗求人に応募して働いていたころもこんなの好きだったなあ、バゲットって名前だったっけ? 「村一番の美少女の唾液で醗酵! やわらかしっとり」のウリ文句はさすがで、ふかふかやわらかでおいしい、けどこの世界唾液好きすぎるだろ。
しばらく歩いて、広場の真ん中の大きな焚き火の前に腰掛ける。この世界の木は薪にしても燃やしてもまだ生きてて、肥料さえ与えれば火の番をしなくても成長しながら燃え続ける。
「はあ」
村の人にもらった唾液で育てた木の実をかじり、家畜の唾液直飲み茶(茶なのか)を飲みながら、ふと憂鬱になった。
私はどれだけこういう人生を繰り返すんだろう? なんとなく生きるのに飽きたような感覚を持ちながら生きて死んで、また生まれ直して……多分終わりはないんだろう、私のはじまりのはじまりが、神仏だとか特別な資格を持った聖霊でも永遠の生地獄を与えられるような大悪であったような気もしない、多分、ずっと続くのが普通なのだ、みんなだって何かの生まれ変わりなのだ、だけど、私だけが「忘れること」が苦手なのだ。
ごうごういつまでも燃え続けて、燃料であることからずっと逃げられないこの薪と私は同じね。はあ、忘れたい。全部忘れて鳥になりたい。奈良風俗嬢時代に気持ちを軽く重ねあわせながら、私は憂鬱を抱えて焚き火を見つめていた。
「七番街生まれボナータボジョルノフスコベーザ塩鮭大好き?」
「えっ?」
声の方を向くと、そこには20そこそこの青年がいて、そいつは目を合わせると私の身長に合わせて膝を折り、急に私を抱きしめた。
「あ、あの……?」
「ああ……! やっぱり君だ……! やっと見つけた……やっと見つけたよ、七番街生まれボナータボジョルノフスコベーザ塩鮭大好き・ドドスコドンドン! 七番街生まれボナータボジョルノフスコベーザ塩鮭大好き・ドドスコドンドンじゃないか……!」
「あの!」
勝手に抱きしめられて感極まっているけど全然訳がわからないので、とりあえず身をよじって振り払う。急に現れて私を抱きしめたのはさっき私にお菓子をくれた男で、よく見るとそこそこなイケメンで、不思議に惹きつけられるような気持ちがあった。でも十歳の女児にいきなりだきつく異常性欲犯罪者だ! 奈良風俗嬢時代の社会通念が蘇り、私は憤った。
「ちょっと、なんなんですか? さっき唾液で溶かしたチョコレートをくれたときはユーリイ・コンコンチキ、漁師の息子のパティシエって言ってたけど、嘘だったの、本当は異常性欲犯罪者なんですか?」